「スプーン有料化」はどこにも書かれていないー「プラスチック資源循環促進法案」読んでみた
こんにちは、環境サークルEcoaサークル長のなっしーです。
先日3月9日、政府がプラスチックゴミの排出削減やリサイクル強化を進めるための新法案「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案(プラスチック資源循環促進法案)」を閣議決定しました。
この記事では、「プラスチック資源循環促進法案」とは何かを、それに関連する筆者の見解を加えながら述べていこうと思います。
法案の概要は以下の環境省のHPより見られます。ご参照ください。(記事で取り上げる案文なども添付資料より閲覧できます。)
この法案の基本方針として、以下の3つが挙げられています。
・プラスチック廃棄物の排出の抑制、再資源化に資する環境配慮設計
・ワンウェイプラスチックの使用の合理化
・プラスチック廃棄物の分別収集、自主回収、再資源化 等
要は、プラスチックの排出削減やそのリサイクルの強化を、単なる呼びかけではなく正式に法律として制定する試みということですね。
政府がより直接的にプラスチック問題に取り組む姿勢を示しただけでも、この閣議決定は大きな意義があると考えられます。
一時はTwitterのトレンドにも挙がるなど、広範囲に注目を浴びた法案であるように見えましたが、それに対する批判が多く見受けらます。
世間の声を一通り調べてみたのですが、皆さん怒り心頭のご様子。この法案に対する賛同の声はほぼ皆無という状況です。
その要因はご存じの方も多いように、「スプーン有料化」というワード。
ネット記事ではその見出しにこの言葉が記載され、あたかも既に決まっているような喧噪で批判する方々も見受けられました。
まだ決められたことではありません。「スプーン有料化」は検討に過ぎません。それを規定するための法律すらまだ法案の段階です。
ただ、要綱、案文に書かれていない「スプーン有料化」が新聞や記事で取り上げられたのは、小泉進次郎環境相が3月9日に行った記者会見の中での発言が根拠となっていると考えられます。以下の動画の2分あたりで、そのことについて言及されています。
会見の中で小泉環境相は「コンビニなどで提供されている使い捨てプラスチックとされるスプーン、フォークなどが無料、無条件で配られることはなくなると考えている」という旨の発言をしています。(ネット記事ではこの部分を切り抜いて書いているものが多いですね。)この発言の直後に、「詳細は法案が成立してから決めていく」と加えています。
具体的な施策は定かではありませんが、少なくともこの法案は使い捨てプラスチックの提供体制の見直し、及びその代替素材の検討を方針としています。「有料化」と断定するにはまだ早いでしょう。
では、使い捨てプラスチックとして、なぜ「スプーン、フォーク、ストロー」を削減対象に挙げたのか?その根拠は、法案の案文の中に見られます。
案文第四条に「事業者及び消費者の責務」として「事業者及び消費者は、プラスチック使用製品をなるべく長期間使用すること、プラスチック使用製品の過剰な使用を抑制すること等のプラスチック使用製品の使用の合理化」により削減に努めることと記載があります。
「長時間使用」しない、かつ「過剰な使用」が見受けられる使い捨てプラスチックとして、無料提供されるスプーン、フォーク、ストローを削減対象として考慮していると考えられます。
「より排出量の大きい食品トレーは後回しにするのか」という意見も見られましたが、食品トレーなどの保存器具は製造、流通、陳列などを加味して「長期間使用」できる製品に該当するのではないかと筆者は推測しています。この法案はまだ、食品トレーなどの基盤性の高い製品まで規制できる効力を持たないと判断したのではないですかね。
そもそもの話をすると、この法案で述べられているのは使い捨てプラスチックの有料化に関する事項のみではありません。
案文の第三十一条から第三十八条は「市町村の分別収集及び再商品化」、第三十九条から第四十三条は「製造事業者等による自主回収及び再資源化」、第四十四条から第五十三条は「排出事業者による排出の抑制及び再資源化等」について述べられています。
つまり、この法案は「リユース」「リサイクル」についての規定が大部分を占めています。今までは推進活動などの協力を呼び掛ける行為しか行えなかった「3R(4R)」を、法律によって強化できるのは大きな意義があると見て良いでしょう。
さらに、この法案はプラスチック廃棄、およびその再資源化において、柔軟な自由度を持たせたものであることが案文から分かります。
第四十四条に「プラスチック使用製品産業廃棄物等の排出事業者の判断の基準」として、「プラスチック使用製品産業廃棄物等の排出の抑制及び再資源化等の状況、(中略)技術水準その他の事情を勘案して定めるものとし、これらの事情の変動に応じて必要な改定をする」との記載があります。
プラスチック廃棄物削減の対象は限定的ではなく、「状況」、「技術水準」に応じて「必要な改定をする」としています。国際的な潮流や、新たな技術革新にも対応して施策を取ることが出来るという点では、この法案は評価に値すると筆者は捉えています。
このように、「プラスチック資源循環促進法案」は「スプーン有料化」という側面のみから善し悪しを判断するには早計であるものだと筆者は考えています。
この法案は今月国会で審議され、成立すれば来月4月には施行される見通しです。
私たちは今後の動向に注目しつつ、感情に任せず慎重に意見を交わすべきだと思われます。
サークル長・なっしー